前記事に引き続き、今度は【詩】を読んでいきます。
いろんな文章作品の入った本を読むとき、なんだかファミレスにいる気分だなあという思いがあります。メニューやいろんなサービスがあって、どれを頼んで(読んで)もいい。
和洋のメニューがあるとしたら、次は洋食を食べる気分です。
短歌編(前編)はこちらから。
【詩】の前に【feature】があり、ここから詩へ変わります。
失礼のないように言うんですが、これはドリンクバーで少し休憩する感じです。
(ドリンクバーは重要です)
(敬称略・目次順)
【feature】
やわらかい双葉 瞳と肌は
輝かせ 感度を信じている
れの「あこがれ」より
暗い描写が続く中、疑心暗鬼な部分が多い文章のなかで、さらっとこの一節がでてくるんですが、この「感度を信じている」がいいです。顔の近くにある双葉へ目のピントが合っていく。双葉を観察している描写なんでしょうけど、「感度を信じている」のは双葉なんですが、この描写で自分の感覚も信じようとする希望がうかがえます。
希望...人によってはかなり薄っぺらい言葉なのかもしれませんが、希望を感じるとき、それは実感がある、ということなのかもしれない。
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居酒屋のキャッチに「なんでもします!」って言われたから「あたしと星座になって」つった
LOVE♡やめちまえ「BestTweet」より
本を開くといきなりツイートが散りばめられている!(ツイートの画像が星のように掲載されている)のでびっくりするんですが、おもしろいです。ていうか、これも感想として引用されるとは、ご本人はたぶん思いもよらないと思う。
「なんでもします」のなんでもとは、星座という物理的な星になることではなくて、特別な存在になり合いましょうという意味なんですが、これは居酒屋のキャッチというしんどい仕事にも意味を見出す(というか価値を置こうとする)言葉で、優しさを感じます。しかし、ツイートでもあるし、路上でのこのやり取りには重力がなく、すぐ立ち去ってしまうことを前提としていて、落ち葉のような儚さがあります。(真面目)
私は居酒屋のキャッチへは完全に無視してしまうので、この優しさを見習いたいとおもいます。
【詩】
気持ちのよい風と
たまに刺すような乾いた空気と
複素数太郎「殺人コーチの最強殺人指南動画」〈たくさんのご声援をありがとうございます〉より
作品群に共通しているのは、混線と破裂、というイメージがあります。たぶんいろんな人は破滅側の言葉にインパクトがあってそっちを見ちゃうというか読んでしまうのかもしれませんが、私は混線に注目してしまいました。
風は気持ちいいと感じるのに、空気が刺してくるのは、これはなんなんだろう?(作者がいちばんなんなんだろう?と思っているかもしれませんが)
誰もが辻褄を合わせようとすると思います。混線はその辻褄をいったん置いておいて、描写するということなのかもしれません。そこには情報量と取捨選択がかなりウェイトになります。作品全体を通してセンスを感じるのは、この取捨選択なんだろうなあと思います。
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その晩あたしは生きていた中で一番綺麗な夢をみた。
地平線から大きな月がのぞく夜の花畑は
不気味なほどに静かで暑かった
知らない虫が鳴いていて
あたしたちは夢中でピンクや黄色の花の蜜を吸っている
水庭まみ「蟹の観光」より
詩の構成は物語調で読みやすく、蟹が出てくるんですが、この中で蟹の夢の描写がとてもよいと思いました。物語のダイナミズムは実際に連作を通して読むと良いとおもうので、私はスポットで感想を言えればなあと思います。
蟹が、蜜を吸う...。蟹はグロテスクな生き物だなあというか、虫のような強烈な姿をしながら、甲殻類のおいしさを提供してくれる不思議な存在ですよね。
そんな蟹が、私たち人間と同じように夜のディナーを楽しむ描写に思えました。蟹の生活と人間の生活の置き換えがおもしろくて、蟹が宇宙人のような、そんな気持ちにさえ思えてきました。たとえば、外国人が寿司を食べるのを楽しんでいる風景にも似ている感じです。実生活とイメージのトレースが、ちょっと不思議に思えるあの感じ。
しかし戻されるのは、蟹であるというグロテスクな姿と、蟹の独自の終局であるというのは、もの悲しさもあってしんみり読んでしまいました。
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夜空さんの詩の感想を書こうと思って何度も読み返しているのですが、たいへんです。悪い意味ではなく。
作品を読むのは、何かを受け取るとか、響くものがあるとか、共感するとか、マネしたいとか、いろいろな思いや表現を一度飲み込む(受け入れる)ことだと思うんですが、難しい。お酒が足りないのかもしれない。缶チューハイの残りを、すべてグラスに注ぐ。
フレンチブルドッグのひたむきさで、抱擁の感覚をただただ夢中に貪っていると、オレは一本の樹木と化している。
夜空「酒乱狂いのブギウギナイト」より
私たちは酔うと、世界がまわっているように思える。しかし、世界は回っているように見えて回っておらず、これから来る「冷める」感覚を予感しているのか知らないが、静止の瞬間を捉え続けようとするんだと思う。
この詩のおもしろいところは、狂えるように回るコーヒーカップの中にいるようで、止まっている何かを捉えようとしているところにあって、それを「樹」という表現をしているところがいい。まさに手を広げているようで、葉はない。冬の樹なんだと思う。
ここまで読解しようとする私(黙劇)は気持ち悪く思うかもしれないけれど、見えてしまったものはしょうがない。真相はわかりませんので新しい解釈となれば幸いです。
いまからでも遅くない
そういう未来もあった
夜空「キャラメルの爆発」より
掲載順は違いますが、この詩もおもしろいです。この詩は「香り」で終局させているところが見事だと思いました。ぜひ読んでみてください。
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アケミは、ババアを殴ろうかと思った。それは、今しかないと思った。
二枚貝「リボ払い・リボ払い・リボ払い」より
詩とは関係ないのですが、夜空さんの詩が前にあることで「オレ、行くから、あと頼むね」という意思のようなものを感じて、二枚貝さんのスロットルを上げているような気持ちになります。
瞬間的な暴発を、アケミはしようしようとしてイメージだけはしていくわけですが、それが「リボ払い」という意味なのかな~と漠然と読んでいたんですが、よく読んでいくと「抑圧」のほうがすごく感じるのです。
そういえば、何かを買うというとき「手に入れる」という手のひらの中にその買ったものを入れるようなイメージがありますが、支払いが残っているリボ払いの場合、支払い続けるという抑圧が待っているよなあと今更思いました。完全に手に入れることへの(もしくは完全に自分のテリトリーに組み込まれることへの)忌避感がすごく伝わってきました。一方でバイオレンスな状況になっていくまわりが一層おもしろいなあと思いました。
【全体を通して】
短歌は、解釈がおもしろくて、
詩は、読み手の自由度がおもしろい、
と思います。それらを再認識できました。
また、強いて意味を私のなかでつけるとしたら、
死地をどう言葉で吹き返すか、でしょうか。
にゅ~冥土でんせつ!
……あなたの冥土には
どんな風が吹いていますか?
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