おわ〜 なんだこのシンプルすぎる表紙は!詩集「sea.」
そう。我ながらシンプルすぎる表紙にしてしまった理由はいくつかあるのだ。
私の敬愛する作家、村上龍の「限りなく透明に近いブルー」、森博嗣の「スカイ・クロラ」の表紙の青をリスペクトして、なのだ。
*もう「なのだ」口調をやめます。
とにかく、だーっと感想書きます。
一部私の好きなところを引用しますのでどうかご容赦ください。
■ほかのなにか さん「来る海」
もうこれは、トップ(ページ順の一番最初)にしたいと、思いましたね。
海って、来る?みたいな。海をカメラショットしている画面と、私という対比が
とてもシンプルで良いと思いました。
安心→錯覚→傍観という構成なのですが、そこに海が望遠で写っている感じがします。
思いのほか
死も近い
それを思い通りに扱っているかのようにしているのを
私は
なにもできず見ているのです
■カジノマユ さん「タナトス」
詩集「sea」のテーマ色は2つあります。青とピンクです。
もちろん青は海(自然)を表しているわけですが、ピンクは人間側の【何か】を表しているんだと思います。
そういうところからいうと、「タナトス」はピンクの詩。つまり人間側の【何か】なわけです。
カジノマユさんは詩の途中で「月」という第3者を登場させています。
「月」は海面にうつるものです。この海、月、人間という3次元で詩を立体的にしています。また、そのために海を一種の「鏡面」・「面」としてとらえているところ。ここが良い。
あやまちを
青の沈黙に叫んだとして
鋭く呟いた
贖罪が反射する
■四流色夜空 さん
・「はじまりの場所」
四流色夜空さんの詩の特徴は、世界の前提より前へ前へ行こうとする連続するワードがすごくスピード感をだしています。このスピード感はおもしろいです。
詩では「焔」が出てくるんですが、これが海のギラギラ感が出ていて良いです。
はたまた人間側の情念的な「焔」なのか、と混ざっていく感じのなかで、最後は光で終わるというかなり最後スッキリしたものになっています。
灰塵と化した
孤独の
壁を
最後の光が照らす
・「キャッチアンドリリースの精神」
句読点のない文章がだーっと走ったあとに、暗転するように詩が現れ、の繰り返しでとてもおもしろい。この句読点のない文章がだーっと続くのは私が好きな村上龍のリアリズム的文章表現にあるのでかなり理解できます。固執したように続く表現のあとにあるあっけらかんとした詩の文節がいいです。
感情を押し殺すために距離を置くときの小鳥のまなざしで実際嫌がることはなんでもやったもっと近寄りたかったからそうしていたとは口に出しては言わずも伝わっていたすくなくともそれほどの信頼関係があったと
■マツ さん「わたし」
ちょいホラーな感じが好きです。ぱぱぱとシーンがわかって、こちらもこわさを感じれます。
そしてまるで今敏の「パプリカ」のように映画のなかの画面に「わたし」がいるシーンは、現実と胸中が交錯・錯乱する感じ。2重線上の「わたし」のなかに、リアルなスマホのバイブレーションの登場が良いです。
あのまま映画を観ていたら
主人公はわたしだったに違いない
今歩いている雑踏にも
わたしが紛れているに違いない
■ミチル さん
・「揺れる」
これは次の作品につながる「序」ととらえたのですが、この水面の描写が淡々と繰りかえされるところに水面の機械感があって、ちょっと残酷にも思えます。自然現象というのは決して優しいものではないことが、ひるがえって「あなた」にかえってくるところが「はっ」とします。
水面はゆれる。
あなたのすべてに私は揺るがされる。
・ただ生きていくということ
今さらなのですが、原稿の改行をいかして(そのままで)編集しています。
なのでこの2行改行を原稿のママなのですが、この距離感がミチルさんの詩の特徴だととらえています。海のつながりと、「君」との距離感の表現がとても良いです。
また会えるかな。
そんなこと、思ってはいないだろうな。
海が繋がっているように、僕らの毎日もずっと繋がってくれたのなら。
■末埼鳩 さん「分かれあって分かりあえない」
さっき、私は青が海で、ピンクが人間側だという話をしましたが、
末埼鳩さんはそれを逆転させてたわけです。この発想おもしろい。
ピンクの海なんて・・・どうなるんだろうと思いきや、その物体的な質量に
ポップさのピンクがラベルされて、トロピカルな感じです。しかしそれは物体的な哀しさを持っていて、その哀しさがいいな、と思いました。
その粒はプラスチックの螺旋スロープをくるくる下がり、
たぷたぷ揺れる私の心の一部になった。
■高雄宥人 さん
・「聖者」
これは血を連想させるものです。連作の1作目に血とは、、、。と思ったものですが、この生命が生まれてしまう海による、運命の許さない感じがいいです。また、高雄さんは命令形の叩きつけ方が見事です。真(シン)で叩きつけるタイミングを知っているのです。
あらゆる事象の奴隷であろうとする
聖らかさ だけのひとが
無邪気なけものの海流にさしだした
・「心因性のリーフ・カレント」
私はこれを読んで、貞本義行が描いたムーンライダースのCDジャケットを思い浮かべました。青春を思い出す、というか、忘れることのできない記憶が、過去も今も変わらない海という記号で記憶にこびりついている感じです。
ひとつの魂魄ではどうしようもない
波の揺れかたに
すべては ある
・「海」
sea.の煽り文句に「海の時間、命の時間」と銘うったのですが(覚えてる?)、この意味は時間軸もそうですが、肉体の場所は海か陸かという場所の偏在性にあったのですが、肉体のテーマがとてもここでは表現されていて、おもしろいなと思いました。現実の3Dの肉体が、海へ対峙するときにとても2D化して見えるというところです。
ほかの肉体が海を向き
スクリーンのまぼろしにおどる
波だけが
きのうを脈打ちつづける
■九 さん「一人で海を見に行った」
落ち着かないから海に行こうと思うのは、とくに理由がないですが、非常にわかります。
海の冷笑さ、つまり関係ないことの事物として海がある。それを見て分かるという表現がされていて、スカッとしていていいなと思いました。
そう思えた刹那
悩みが全て彼方へ飛んで行った
■かにはる さん「ぬくもり」
海の描写をしている、と思いきや、タイトルに「ぬくもり」とあるように、海と皮膚の関係を表現していて、この肉体感はおもしろいと思いました。日がさしているのでなく、海から来る圧というか、潮というか、そういう言い表せないものを、つづってくれました。
ああ乱反射する波
無情に広がる皮膚
***
どうでしょう?みなさんの詩を読んでみたくなったでしょう?
え?黙劇の詩の解説がないって?
・・・恥ずかしいのでそれはみなさんでご評価ください。
すなおに、
sea.というひとつのテーマで、こんなにみんな書けるんだなと驚きました。
本当に、募集要項にも「sea.という語感からくるもの」というザッッックリしたものでしたが、海と肉体への関心がしっかりと表現できていて、すごいなと。海の新たな捉え方も発見できましたし、海に関わる(関わろうとしているのか?)ヒト側の表現みたいなものも、おもしろいと思いました。
長くなりましたが、すべての詩に感想をそえさせていただきました。