フランスパン
仕事が終わり、帰っているとパン屋さんがあった。夕飯を考えることも億劫だった私は、そのまま吸い込まれるように入った。
パンしか売ってない。パン屋だから。
イマドキ、一芸で商売をするのはかっこいいと思った。あれもこれもとわがままなお客さまが多く、それに対応する業務の日々。「対応している」ということに価値のある時代。そんな時代にパンで勝負。
ミニマリストを気取る気はさらさらないけれども、単機能は美しいと思う。
「それだけ」という良さ。でもなんだかんだ多機能であることはアドバンテーヂ(ジ)だし、現にスマホとかいう多機能モリモリのモノを使っている。
お腹が空いていたのでフランスパンを買った。バケットとも言う。
帰宅してスープの元に湯を注ぎ、シャワーで濡れた髪を拭きながら、フランスパンをちぎって食べてみた。
かたい。ちぎるのがめんどくさくなり、食いちぎるようにフランスパンを食べている。外の皮は厚く、中は弾力のあるかみごたえである。唾液でやわかくなって甘みが感じられるころ、うまみがやってくる。
最近、こういう「歯ごたえ」みたいなことを考えていなかった。フランスの老人の脳が丈夫なのはフランスパンのおかげ、とよく聞く(?)けど、間違ってはいないのかもしれない。頭がはっきりとする感覚がある。
賞味期限が比較的長いというのも良い。単機能ゆえだと思う。これにカレーが入っていたら、3日は早く腐るよね。
そういえば日本食は「生」を特徴にしている。刺身とか、そう。新鮮さというよりもむしろ、「生」を実現するために新鮮さが後から付いてくるんじゃないかな。お米だって、一度炊いたらもう腐るのは早い。何度炊飯器にカビを生成させたか。平安か鎌倉時代に乾飯(かれいい)なんてあったそうだけど、想像するに不味そう。
日本食の「生」もいいけど、時間が経っても腐らず、ちょっと硬いけどだいぶ美味しいフランスパンってすごい。