黙劇プレゼンツ

ちょっぴりをたっぷり。

二流や三流を笑わない 〜一流を夢で見たときに思った私とまわりの反応〜

   夢で、坂本龍一の演奏を聴いた。

 

   夢だから実際には聴いていないし、実際に見たわけじゃない。ただの妄想。そこから思ったことを書いている。

 

   小学校の体育館。クラスや学級の演奏会。序盤、特別に坂本龍一が一曲演奏してくれることになった。すごい演奏だった。見ているみんなは感動したし、終わったときの拍手はすごいものだった。

 

   坂本龍一の演奏が終わって、ひそひそと話し声が聞こえた。「あれは校長のツテがあったから実現した」「坂本龍一とはこういう付き合いがあった」「私の親戚と坂本龍一は友達で」などの人間関係の自慢が、うしろでささやかれていた。

 

   坂本龍一は序盤での演奏が終わったあと、そのまま帰るようだった。いろんな人と握手していた。私も握手したかったが、恐縮してできなかった。ただ、帰り際でも坂本龍一に何か声をかけたかった。「ファンです」とか「新しいアルバム聴いてます」とか、どんな言葉を投げかけようか考えたが、いい言葉が思いつかなかった。とりあえず「新しいアルバム聴いてます」でいいか、と思って近くにいこうと思ったが、なんだかむなしくなってやめた。坂本龍一の背中が、非常口の磨りガラスの奥へと消えてった。

 

   序盤の特別演奏が終わると、われわれ小学生(たぶん。夢だから自分たちの年齢が不明)のいつも通りの演奏会になる。演奏は下手だし、間違えるし、変な音が出るし、会場からはまたひそひそと笑い声が聞こえた。みんな笑っていた。「下手だなあ」と。「こんなの演奏じゃないよ」なんて声も聞こえた。

 

   しかし私は全く笑えなかった。笑いたくなかった。前置きが長くなったけど、一流の坂本龍一を聴いたあとに、耳だけは良くなって一流と二流と三流が分かった気になって人間関係をはじめ、ああだこうだ言えるようになるけれど、実際には自分たちも二流や三流の演奏しかできていない。もちろん一流たる坂本龍一の演奏はそれはすごいものだけど、だからといって、それらをひっくるめて二流や三流を笑うのは、何か違う気がしたのだった。

 

   観客席の1番前の席に座っていたので、彼らのいわゆる下手な演奏をずっと聴いていた。まわりの笑い声が頭に入ってこないよう、聴くことに集中した。