黙劇プレゼンツ

ちょっぴりをたっぷり。

鉛筆

 久しく鉛筆を使っていない。

 仕事上、校正をやるのだけど、赤鉛筆なんて使わない。細くて発色の良い水性赤ボールペンを使用している。もちろん黒鉛筆なんて使わない。黒ボールペンで業務は滞りなく進んでしまう。

 小学生の時は、高学年になったらもうシャーペンの使用許可が出て、カチカチと使っていたものだった。鉛筆なんてカッコ悪い、どれだけ多機能なかっこいいシャーペンを持っているかが注目されたものだ。グリップがゲルになってるとか、シャーボ(シャープペン+ボールペン)で効率的に勉強してるとか、よくわからない文房具のこだわりがあった。

 今、文房具をすりつぶすくらい使う機会は、ほぼない。気がついたら無くなっている1本100円くらいのボールペンとか、高級なシャチハタ付きペンをもらっても使いにくくてたまらないし、文房具へのこだわりはすっかり頭の中からすっぽり抜けていた。

 そう、すりつぶす感覚があったのだ。鉛筆には。

 使えば使うほど短くなっていくし、芯は削らなければ丸く太くなってしまう。ただ、木材に塗装されたなめらかな表面、指の間で転がす6角形は心地よいものがあって、軽い素材から書かれる乾いた黒鉛の筆跡は、字をはっきりと私たちに見せてくれた。

 勉強してる感覚というのも、鉛筆のおかげだったのだろうか。

 帰りの電車の座席で、足をふらふらとさせながらいそいそと宿題に食いつく小学生を見て、なんだかいいなあと思った。

 その鉛筆はとても短かった。